【時事】電通違法残業事件~判決~
【事件概要】
新入社員の自殺を発端に、過重労働を容認する企業や社会の問題を浮き彫りにした電通の違法残業事件。以前、東京地検の略式起訴に対し、東京簡易裁判所が正式裁判を開いて審議すべき旨の決定を出したことをご紹介しましたが(>電通違法残業事件Vol.1)、10月6日に判決公判が開かれ、東京簡易裁判所は求刑通りとなる罰金50万円の判決を言い渡しました。
9月22日に開かれた初公判では、同社の山本社長自身が出廷し、起訴内容について「間違いありません」と認めて謝罪したことも注目されました。
【今回の裁判の意義】
「罰金50万円」、この数字を見て大企業電通にとっては痛くも痒くも無い判決と思われるかと思います。労基法違反の裁判ですので、罰金のみで上司や経営層も罪には問われておりません。刑罰としては非常に軽く、再発の抑止力という観点からも実効性に欠けると言わざるを得ません。
しかし、労基法違反の場合、略式裁判で書面上の審理となる場合が多い中、正式裁判として公開の場に代表取締役が出廷して審理が行われたということは非常に意義があることだと思っています。企業内というある意味閉鎖された社会での問題は、なかなか外部には伝わらず企業内で処理されてしまうことが多いので、電通という大企業が長時間労働や過労死の問題に関して社会的に非難される事態になったことは、金額としては小さいかもしれませんが、社会に与えた影響は大きいと思います。
実際に、様々な企業において勤怠管理を強化する動きが起きておりますし、労基署も監視・監督を強化しています。長時間労働が全て悪とは言いませんが、本人の意思に反して長時間労働を強いられる状況が改善し、効率的な働き方への一歩となればと思います。
【長時間労働のみが原因か?】
もっとも、上述したように、社会的な耳目を集め、問題を議論する契機となったことには意義があった裁判だと思いますが、長時間労働だけに焦点を当てた問題提起には非常に疑問があります。社内の慣習、伝統などハラスメントに繋がり兼ねない会社風土は無かったのか、周囲を含めた多くの社員が「それがうちの会社だから、うちはうち」として傍観してしまったのではないか、など発見しづらい意識の問題もありそうです。閉鎖社会では、当事者は孤立してしまいがちですので、外部と相談できる開けた環境作りが必要だと考えます。
(担当:萩生田)
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