【相談】離れて暮らす両親の終活、できることはある?
Q1, 福岡出身で、現在は東京で仕事をしている50歳男性です。地元に年金暮らしの両親がおり、持家はありますが財産などの詳細はわかりません。兄弟は実家の近くに妹がおりますが、何から手を付けたらいいでしょうか。
■まずは両親の資産把握からはじめよう!
―両親との関係は良好ではあるものの、近くには住んでおらず、両親の資産状況や終活の様子は把握していないという相談者。
この場合、両親の資産整理や終活準備として、どこから始めていけばよいのでしょうか。
萩生田:まずは財産の把握をしていくことです。ご両親の資産は持ち家だけか、他にも土地はないのかなど、可能な限り両親と話をしてください。何がいくらあるのか、マイナス資産も含め、明らかにしておくことが大切です。
高久田:資産を事前に把握するのが重要な理由は、相続税がかかるかどうかの判断をしておく必要があるからです。
ご相談者は妹さんがいらっしゃいますが、関係が良好であれば近くにいる妹さんとも相続について早めに話しておけると良いですね。例えば、妹さんは持ち家を引き継ぎたいと思っているとか、自分は両親が亡くなったら土地は売ってしまいたいとか。そういった事前の希望が分かっていたら、資産の分配や相続税に対しても事前の準備ができますよね。
―例えば両親の死後、相続税を払うためには現金が必要になります。手持ち資金が足りないと、資産を売却して相続税を払うことととなり、本来売りたくなかった土地や家を手放さなくてはいけなくなる事例もあります。
高久田:僕個人の話で恐縮ですが、兄弟姉妹など相続人が海外に住まわれている方は注意が必要です。僕は兄がイギリス在住なのですが、イギリスには実印が存在せず、サインで対応する文化です。もし今両親が急に亡くなったら、遺産分割の書類を準備するなどの手続がとても面倒になります。そういった事情を事前にわかっていれば、何をどう分けるかを決めるだけでなく、必要書類も準備できて良いと思います。
■そもそも資産を把握していない親も多い?!
―まずは資産の把握から始めることが大切。とはいえ、人によってはしっかり把握できていない場合や、両親片方しか資産の全容を把握していないケースもあるといいます。
話し合いだけで全ての資産が具体的に把握できれば良いのですが、両親がお金に無頓着だったり、そもそも終活に乗り気ではなかったりした場合、子どもはどのように対応すればよいのでしょう。
萩生田:相続と聞くと、親からするとどうしても「自分の死を待っているのか?」といった印象を抱かれがちです。でもそうではありませんから、小難しい法律の話をするのではなく「適切な準備をしていきたいんだ」「親の希望を聞いておきたいんだ」という姿勢を見せ、ご両親の心に寄り添った接し方をしていくことが大事です。
例えば実家に帰省した際、倉庫や納戸が整理されていない実家であれば「一緒に片付けようか?」という声がけから初めていくのはどうでしょう。家の大掃除は、過去の通帳や納税通知書、また古美術品などの発掘ができたりします。そこから資産の話をすると、自然と両親も整理しなくちゃいけないといった心理になっていきますよ。
高久田:もし可能であれば、資産の把握のために通帳は10年分ぐらいとっておけるとベストです。なぜなら相続税の計算をする際、過去10年分をさかのぼってお金の動きを調査します。意外と家族が全く把握していないところで数年前に知り合いにお金を貸していたり、金銭を贈与していたりというケースもあります。お金を貸していれば貸付金として相続財産になりますし、贈与していればその贈与が有効かどうかなど様々な検討事項が出てきます。
また最近はネットバンキングを使うご高齢者も増えましたが、ネットバンキングは存在を把握しづらいので注意が必要です。
萩生田:ちなみに私の場合ですが、年に1回、自分の遺言書等を書き直しています。会社のことや共済で降りたお金はどうするかなどを決め、その時々で改訂しています。
これを作る意味は、もちろん事業者である自分の死後、スムーズに財産やビジネスを整理してもらうことも目的の1つですが、遺言書や財産目録をつけたノートを両親に預けることで、「私もやっているんだから、一緒にどう?」という意志を示しています。
今のところまだ死ぬ予定はありませんが、いつ死ぬかも分からないのが人間ですから、まずは自分が面倒臭がらずにやってみることが大切ではないでしょうか。
高久田:自分の棚卸しもしながら、親の棚卸しも出来たら良いですよね。意外と不要な保険に入りっぱなしだったり、土地の名義が死んだ祖父のままだったなんてことが分かったりします。
ちなみに故人名義の土地のままだと売買ができないので、事前にちゃんと変えておきましょう。その場合の土地名義変更には、その故人の相続人全員の印鑑が必要です。その相続人の中で故人(仮にAとします)がいたら、さらにそのAの相続人の印鑑が必要と、名義変更は遅くなるほど大変になります。また1人でもNOと言っていたら名義変更はできませんし、相続人のうち所在不明な方がいると、「不在者財産管理人」を立てないといけません。こうなってくると専門家のサポートは必須です。
早めの準備は資産を守り希望通り引き継いでいけるだけでなく、相続人が楽をするためにも大事なのです。
■兄弟姉妹とのわだかまりは、早いうちに解決を
―遺産相続では、今まで仲の良かった兄弟姉妹が揉めてしまい、相続をきっかけに絶縁してしまうケースも耳にします。今回のご相談者の場合は、妹が両親の近所におり関係は良好ということですが、一般的に兄弟姉妹との付き合いで注意すべき点はあるのでしょうか。
萩生田:正直なところ、相続を見据えて兄弟姉妹に対して改めて準備するという感覚は、あまり持たない方が良いように思います。相続が自分ごとになってきたから仲良くしようって近づいてきたら、いい気はしませんよね。
もちろん仲が悪くなることを避ける準備は必要ですが、相続問題をきっかけに、兄弟姉妹の気持ちをより理解し、関係を良くしていくという心持ちが大事なのではないでしょうか。
高久田:よくある問題に、相続時に土地と現金どっちを希望するか意見が分かれてしまい、喧嘩になるケースがあります。例えば両親の資産が9500万円の土地と、500万の現金があったとして、どう分けるか悩ましいですよね。
全員が現金を希望していれば土地を売れば良いのですが、土地を売りたくない兄弟姉妹がいて、でも自分は現金をちゃんと相続分が欲しいと思ったら、確実に喧嘩になります。事前に兄弟姉妹と希望を共有していれば、対処できることもあるかもしれません。こういったトラブルがすでに想定できるのであれば、専門家などを頼りながら早めに準備することで、家族の絆を守ることにもつながります。
萩生田:兄弟姉妹での遺産相続時のトラブルでは、遠くに住む子と実家で同居や親の近くで住む子との間で、喧嘩になるケースもよくあります。
こういった場合、遠くに住む子は「向こうは両親の近くで沢山いい思いをしているに違いない」と主張し、親の近くにいた子側は「親の面倒を全部押し付けて、自分は自由気ままに暮らしてきたくせに」といいます。
こういった不満は、親が金銭的に裕福であるほど耳にします。根本には、どちらが可愛がられていたのかという比較もあるのですが、そもそもお互い金銭が絡んだことで視点が相手の苦労や立場に思い至らないことから起きています。
冷静になれば、両親の近くは面倒も恩恵も受ける機会が大きいですし、遠くに住まえば、親の恩恵も少ないけれど気軽さはある。相続という金銭が絡んだ結果、どちらも両面があることに気づけなくなってしまっているんです。
いつも感謝を伝えるのは無理だとしても、金銭が絡むことによって仲違いすることは避けたいですよね。
例えば家族のグループLINEを作って、近況報告がしあえるような関係にしたり、誕生日や敬老の日を祝うなどしたり、その時できる感謝やコミュニケーションを取っていくことは、今からでも可能なのではないでしょうか。
―両親と離れて暮らしていると、つい相続問題は後回しにしてしまいがちです。しかし、すでに両親が生きているうちに会える回数、話せる回数は、一緒に住んでいないからこそ限られています。
まずは家族との関係を見直したり、家の掃除や財産把握などに取り掛かってみたり、ご自身の状況に合わせてやれる事から始めてみましょう。